AIはなぜもっともらしい嘘をつくのか
ChatGPT、Claude、Gemini などの生成AIを使っていると、時々「あれ、これ本当かな?」と思うような答えが返ってくることがあります。たとえば、存在しない人物の経歴を述べたり、正確でない引用を出したり、詳しい数字を自信たっぷりに言ったり。こうした現象を「ハルシネーション」(幻覚)と呼びます。
これはAIが「壊れている」わけではなく、仕組みの上で起こりうるものだと説明されています。この記事では、なぜそうなるのかをたとえ話でつかんだあと、どんな質問で間違えやすいのか、間違いを減らす質問文はどう書くのか、出てきた答えをどう確かめるのかまでを、中高生のみなさんが今日から使える形でまとめます。
AIは「検索」ではなく「続きを書く」ことで文章を作る
AIが質問されたとき、「どこかに保存された情報を探してきて、整えて返している」と想像するかもしれません。でも、生成AIの基本的な動きはそれとは違います。
たとえ話で考えてみます。ものすごくたくさんの本を読んだ人が、書名も出典も覚えていないまま、「こういう話の流れなら、次はこう書くものだ」という感覚だけで作文している、というイメージです。「日本の首都は」と聞かれれば「東京」と続けるのが自然だと分かります。同じ要領で、1語ずつ「この流れで自然な次の言葉」を選んで、文章をつないでいきます。
図にすると、こういう違いです。
この図でいちばん大事なのは、いちばん下の2行です。正しい答えを書くときも、事実でない答えを書くときも、文章を作る手順は同じです。たとえるなら、クラスで「分からないけど、場の流れに合わせてそれっぽく話せてしまう人」が、堂々と話しているのと似ています。聞いている側は、話し方だけでは本当か作り話かを区別できません。
「正しい文章」と「もっともらしい文章」は見分けがつかない
前の節の話から、次のことが言えます。AIの文章は、内容が事実でなくても、正しい内容とまったく同じ滑らかな日本語で出てきます。文章が下手だったり、しどろもどろだったりすれば「怪しいぞ」と気づけますが、AIの誤りは堂々とした文章でやってきます。文章の自然さは、内容が正しい証拠にはなりません。
もうひとつ、人間との違いがあります。人間は、知らないことを聞かれたら「知りません」と言えます。AIは質問を受けると、何かしら続きを書こうとする性質があります。そのため、実際には情報が足りない場面でも、「知らない」と立ち止まらずに、それらしい人物の経歴や、聞いたことのない法律の条文、実在しない本のタイトルを書いてしまうことがあります。「分かりません」と答えることもありますが、それに頼り切るのは危険です。
たとえば、学校の調べ学習で「ある地元の企業の創業のいきさつ」をAIに聞いたとします。その企業がほとんど情報の出ていない会社だった場合でも、創業者の名前、創業の年、きっかけのエピソードまでそろった、読み物のような答えが返ってくることがあります。細部まで具体的なので本当らしく見えますが、具体的であることと、事実であることは別の話です。
この特性は、ネット上のフェイク情報の見分け方とも通じています。AI時代のフェイク情報の見分け方もあわせて読むと、「見た目のもっともらしさに引っ張られない」感覚がつかみやすくなります。
間違いやすい質問、比較的間違いにくい質問
ハルシネーションは、どんな質問でも同じように起きるわけではありません。「細かい事実を、ひとつだけ正確に答えさせる」質問ほど危うく、「渡した文章を加工する」質問ほど安定しやすい、と覚えておくと使い分けができます。2026年時点での一般的な傾向として、目安を表にまとめます。
| 質問の種類 | 例 | 間違いの起きやすさ | 使うときの考え方 |
|---|---|---|---|
| 実在の人物の経歴・業績 | 「〇〇さんの出身校と代表作は?」 | 起きやすい | 本人や所属先の公式ページで確認する |
| 具体的な数字・日付 | 「〇〇法はいつ施行された?」「売上はいくら?」 | 起きやすい | 数字は必ず出どころを見る |
| 本・論文・引用・URL | 「この分野の代表的な論文を3つ教えて」 | 起きやすい | 実在するか自分で検索して確かめる |
| 最新の出来事 | 「昨日のニュースは?」「今の最新モデルは?」 | 起きやすい | 「いつ時点の情報か」を先に確認する |
| 計算・数え上げ | 「この文の中に『あ』は何個ある?」 | 起きやすい | 計算は電卓や表計算ソフトで検算する |
| マイナーな固有名詞 | 地元の小さな店、無名の人物、新しい製品 | 起きやすい | 情報が少ないものほど疑う |
| 文章の言い換え・要約(自分で貼った文章) | 「この文章を中学生向けに言い換えて」 | 比較的起きにくい | 元の文章と見比べて抜けや付け足しを見る |
| 構成の整理・アイデア出し | 「発表の流れを3パターン考えて」 | 比較的起きにくい | 事実を含む部分だけ別に確認する |
| 用語のやさしい説明 | 「光合成をたとえ話で説明して」 | 比較的起きにくい | 教科書や先生の説明と食い違わないか見る |
「比較的起きにくい」と書いた行でも、ゼロになるわけではありません。たとえば要約でも、元の文章にない内容がこっそり混ざることがあります。表は「どこから疑うか」の優先順位として使ってください。
最新の出来事については、AIが知っている範囲に区切りがあることが関わります。詳しい確かめ方はAIは最新のことを知っている?「いつ時点か」の確かめ方にまとめています。
間違いを減らす質問文の実物
質問の書き方を少し工夫するだけで、もっともらしい作り話を出しにくくできることがあります。完全に防げるわけではありませんが、AIに「分からないと言っていい」と許可を出し、「どこまでが確かな話か」を分けて書かせるのがコツです。そのままコピーして使える形で紹介します。
例1 分からないときに作らせない
次の質問に答えてください。正確に分からない場合や、情報が見当たらない場合は、推測で埋めずに「分かりません」と答えてください。
質問:(ここに質問を書く)
例2 推測と事実を分けさせる
答えを書くとき、確かだと考えられる部分と、推測の部分を分けてください。推測の部分には、文の頭に「(推測)」と付けてください。
例3 数字や固有名詞に印を付けさせる
回答に出てきた人名・年・数字・書名・法律名を、最後に一覧にしてください。それぞれについて、自信の度合い(高い・中くらい・低い)も添えてください。
例4 自分で貼った資料の範囲だけで答えさせる
以下の文章だけを根拠にして答えてください。文章に書かれていないことは「文章には書かれていません」と答えてください。
文章:(ここに資料を貼る)
例4は、特に役に立ちます。AIに「頭の中の記憶」で答えさせるのではなく、手元の資料の範囲に答えを閉じ込めるので、作り話が入り込む余地が小さくなります。教科書の一節やニュース記事を貼って「この中で分かることだけ」を聞く、という使い方です。
ただし、自信の度合いを答えさせても、その自己申告が正しいとは限りません。「自信:高い」と書いてあっても間違っていることはあります。これらの指示は「疑うべき場所に目印を付けてもらう道具」だと考えて、最後の確認は自分で行いましょう。
出てきた答えを確かめる手順
質問文を工夫しても、確認はやはり必要です。次の順番で見ていくと、手間をかけすぎずに済みます。
- 確かめる場所をしぼる。 答えの中から、人名・年・数字・書名・法律名・URLに印をつけます。文章全体を疑うより、ここだけを調べるほうが現実的です。
- 別の方法で検索する。 AIの答えにある固有名詞を、そのまま検索サイトに入れます。ヒットしなければ、実在しない可能性があります。
- 一次情報を見る。 一次情報とは、その内容を発表している元の場所のことです。学校や大学の情報ならその学校のサイト、法律や制度なら官庁のページ、本なら出版社や図書館の検索、といった具合です。
- 2つ以上で一致するか見る。 1か所だけに書かれている内容は、まだ確定扱いにしません。
- 確認できなかった部分を扱い分ける。 確かめられなかった内容は、レポートや発表に使わないか、「〜とされる」「未確認」と明記します。
このときに役立つのが、検索と連動して出典を示してくれるタイプのAIです。Perplexity のようなツールは、答えの根拠にしたウェブページを一緒に表示してくれるので、手順2と3をやりやすくなります。ただし、出典として示されたページが、本当にその内容を言っているかは、リンク先を開いて読まないと分かりません。
そもそも、AIの回答を出典として書いてよいのか迷う場面もあるでしょう。レポートに使うときの考え方はAIの回答は出典にできるのかで整理しています。
間違いが見つかったときの戻し方も決めておきましょう。同じ会話の中で「この部分は事実と違うようです。根拠を示してください。示せない場合は、その記述を取り消してください」と伝えると、訂正したり、根拠がないと認めたりすることがあります。ただし、訂正後の答えも新しい作り話の可能性があるので、もう一度手順1から確認します。
まとめ
AIがもっともらしい嘘をつくのは、AIが「壊れている」からではなく、文章を作る仕組み上、そうなりうるからです。AIは事実を調べて返しているのではなく、「流れとして自然な続き」を書いています。だから、正しい答えも作り話も、同じ滑らかさで出てきます。
使う側にできることは、3つに整理できます。ひとつ目は、人物・数字・書名・最新の出来事のような「間違いやすい質問」を見分けること。ふたつ目は、「分からなければ分からないと答えて」「推測は推測と書いて」のような質問文で、疑うべき場所に目印を付けてもらうこと。みっつ目は、目印のついた部分を、一次情報で確かめることです。
AIは非常に便利なツールですが、「便利 = 絶対正確」ではありません。「確認する前提で使う」という姿勢が、AIとの付き合い方の基本です。基礎的な考え方は知っておきたいAIリテラシーの基本に、資料を貼って質問するときの注意はAIと個人情報|入力していいこと・ダメなことにまとめています。あわせて読んでみてください。